光の渦

子どもの頃の原体験が、今の僕を形成している。それは当たり前すぎることではあるけれど、これほどまでに人生に影響を与えるものなのか、それとも美化された過去がこの原体験を大きく映しているのか、僕には分からない。

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4.転換

 就寝の時間になり、寝袋に包まって横になると、なぜか急にトイレに行きたくなってきた。
 みんなは先に済ませてしまっていたので、僕は一人で行くことにした。
 その時に、本橋さんから「帰りに本部テントに寄ってこれを返してきてくれ。」と、使い終わった乾電池を渡された。
 僕はポケットにその乾電池を入れると、懐中電灯を携えて夜道をとぼとぼと歩き始めた。
 
 トイレを済ませると、本橋さんから言われた通りに、そのまま本部のテントへと向かった。
 暗い中に同じようなテントが立ち並んでいるので、本部のテントを見分けるのは難しかったが、おそらくここで間違いないだろうと見極めて僕は中を覗き込んだ。
 しかし、予想に反してそこには誰も居なかった。

 どうしたものかと途方に暮れて、テント内を懐中電灯で照らして様子を見てみると、そこに保管してあった食糧ケースの中のバナナが目についた。
 僕は中途半端になってしまった夕食のせいで、急激な空腹感に襲われていた。
 しかし、それに手を伸ばすことにはさすがにためらわれていたが、その時にまるでタイミングを見図らったかのように、かずし君が現れた。

 「お前、何をやっているんだ。」
 それに対して僕は聞かれた質問に答えるより先に
 「かずし君、バナナがあるよ。」
 と、思わず言ってしまった。
 「本当だ。」
 と、言いながら、かずし君は僕を押しのけてテントの中へと入りこむと、その手は遠慮なくバナナの房へと延びた。
 「いいか、おまえ、俺は誰にも言わないから、おまえが黙っていれば、このことは誰にも分からない。」
 回りくどい言い方で僕を制すると、ひと房千切って僕に渡し、自分も別の房を外して皮をむくと、すぐにかぶりついた。
 僕も、急いでほおばるとすぐにそのひと房を食べてしまった。
 すでにふた房目に取り掛かっていたかずし君が僕に次の房を渡そうとしてくれたが、僕にはもう充分だったので、それを断って帰ることにした。
 すると、かずし君から
 「おまえ、高校生のテントの場所は知っているか。」
 と、聞かれたので黙ってうなずいた。
 「そうしたら、その中の誰でもいいから、本部の人の命令で俺は本部テントに寝ることになった、と伝えて来てくれ。」
 それだけを言うと、再び夢中になってバナナにかぶりついていた。
 
 僕はそんなかずし君を残して、本部テントから出て行った。
 
 間もなく、テントの反対側から、夜であることを憚った様子の静かな話し声が聞こえてきたので、そちらの方に目を凝らしてみると、誰かが本部テントに帰ってきたようだった。
 僕は、ハッとしてテントの陰に身を隠した。
 すると、僕には気付かなかったらしく、大学生らしき何人かの人たちがそのままテントに入って行った。
 そして、間もなく
 「かずし、おまえ何をやっているんだ。」
 と、いう大きな声が聞こえてきた。

 「そこに座れ。」
 という、怒声とともにどうやらひどい説教が始まったようだった。
 もしかしたら僕のことも言うのではないかと、ハラハラしながらしばらく中の話し声を聞いていたのだが、特にかずし君は僕の事には触れなかったので、悪いとは思いながらも、僕はそのままテント際を離れることにした。


 高校生のテントは昼間に来たこともあって、すぐに分かった。
 僕は、まずテントの外からミミさんを呼んでみた。
 すると、中の明かりが少し動いて、テントの入り口からミミさんの顔だけが現れた。
 「ココ、中に入っておいで。」
 僕は言われた通りに、靴を脱ぐとテントの中に入った。
 テントの中では懐中電灯の明かりで薄暗い様子ではあったが、寝袋に包まり横になったままみんなでおしゃべりをしていた。
 僕はかずし君からの伝言を伝えた。
 すると、ミミさんから
 「じゃあかずしの寝袋が余るから、これに入ってココもおしゃべりをしよっ。」
 と、言って僕にも寝袋に入ることを勧めた。
 僕は言われた通りに、寝袋に入るとそのままミミさんの隣で横になった。
 すると、昼間の疲れと、満たされたお腹のせいでほとんどおしゃべりをする間もなく、睡魔に襲われてきた。
 そして、気付かぬ間に深く眠りについてしまっていた。



 朝、目が覚めると、僕は最初にどこにいるのかが分からなかった。
 いつもの家の布団の上ではないことは理解していたが、昨晩に寝る準備をした班のテントの様子ともなんとなく違っていたからだった。
 しばらく、横になったままで、呆然として記憶を呼び戻していると
 「ココおはよう。」
 と、ミミさんの声が耳元で聞こえた。
 それで、ようやく昨夜の顛末を思い出してきた。
 しかし今度は、勝手に別のテントで寝てしまったことで、何かまずいことになっているのではないかと、急に心配になってきた。
 早速、ミミさんにそのことを相談してみると
 「昨日、ココが寝てしまった後に、しょうこさんが探しに来たので、ここで寝ているって言っておいたから大丈夫だよ。」
 と、言ってくれた。
 ようやく安心すると、僕は起き上がることにした。
 すると、隣でミミさんも一緒に起き上がったようだった。
 「ココ、顔を洗いに行こっ。」
 弾けるようなミミさんの声が僕を促した。


 ミミさんと並んで森の中に入ると、いつもの手洗い場とは違う方へと向かった。
 「どこ行くの」
 不思議に思って聞いてみると
 「素敵な顔洗いの場所」
 と、だけミミさんは答えた。

 やけにせせらぎの音が近いと思ったら、すぐにその小川に朝日が差し込むきれいな場所に出た。
 「キャンプに来たら、やっぱりこうじゃないとね。」
 と、言ってその水に手を差し入れてミミさんは顔を洗い始めた。
 僕も真似をして顔を洗うと、冷たい小川の水が肌に沁みこんで、まるで僕の中にある命の煌めきが、ひしひしと磨かれていくように思えた。
 顔を洗い終わると、ミミさんが持ってきたタオルで僕の顔を拭いてくれた。

 せせらぎの音に包まれながら、しばらく僕たちはそこに黙って佇んでいた。
 朝の澄んだ日差しが水の上で跳ねて、キラキラと宙に漂っているようであった。


 テントに帰ると、僕は使った寝袋をたたんで、再びミミさんと並んで朝の会をするために広場の中央へと向かった。


 すでに多くの人が集合をしていて、僕たちは最後の方だった。
 僕は班の人たちを見つけると、ミミさんにありがとうを言ってそちらに向かった。
 出迎えてくれた班の人たちから何か言われるかな、と思ったけれど、おはようのあいさつをしただけで、すぐに朝の会が始まってしまった。


 朝の会は簡単なあいさつと、注意事項が中心だった。
 しかし、その注意事項の時に
 「かまどに落書きをしないこと。そして、書いた人は今からきれいに消すように。」
 と、いう話があった。
 これは僕のことを言っているな、と思いきっと後で本橋さんあたりから改めて注意をされるだろうと考えた。

 そこで会が終わると、何かを言われる前にさっさと落書きを消してしまおうと思い、僕はダッシュして炊飯場に駆けて行った。
 そして、壁を見ると、そこには壁中に書かれた無数の落書きでいっぱいだった。

 最初は、唖然として佇んでいたが、暫くしてその衝撃から覚めると、僕はその壁を見て回り落書きの内容を確認していった。

 いろいろな字でいろいろな名前などが書いてあるところを見ると、たくさんの人が僕に真似て自分のサインを書いたようだった。
 中には詩のようなものまで書かれていて、なんだか愉快な様子であった。

 僕は未だ群集心理などという言葉は知らなかったが、僕の落書きが切欠で多くの人に影響を及ぼしたことに気が付いて、とても不思議な気分になった。
 また、僕のサインから始まり、やがては詩のようなものまで生まれたその波及の仕方についてもまた、興味を覚えていた。
 それは、人が生きていくという事は、無意識の中で誰かに影響を及ぼしているということ、そしてそこから生じる可能性が無限であることについて、身を以て触れた瞬間だった。


  
 朝食の支度では、僕は昨日覚えたかまどの技を再び披露しようと意気込んでいたが、今日は中学生の人が主にそちらの担当で、僕たち小学生が協力をして料理をすることになった。
 僕もこのキャンプに参加する準備として、半年前から家の料理の手伝いをしてきたので、包丁の握り方などは全く分からない訳では無かったけれど、やはり、慣れない環境といつも自分のことを見てくれている母親がそこにはいないことで、少し不安に思うところがあった。

 大学生たちは、アドバイスや注意を促すことはしても、作業にはほとんど手を出さないスタンスのようで、料理チームは自然な様子でちょろさんがリーダー役になっていた。
 「ココ、これをこういう風に切ってみて。」
 などと、丁寧に教えてくれる様子はとても堂に入っていて、先程まで感じていた僕の不安を一瞬にして吹き飛ばしてくれるのであった。
 口が達者なじんべー君も料理の腕となると僕とどっこいで、熱心に取り組んでいる姿はなんとなく微笑ましい様子に見えた。
 「ココ、手を切らないように気をつけろよ。」
 などと、それでも兄貴風を吹かせたい様ではあったが、しかし今までの突き放すような言い方とはどこか違っていることに僕は気が付いた。
 そうすると、これまでは嫌味が鼻につくことが多かった倉田君でさえも
 「キャンプが終わるころには上達してるさ。」
 などと、彼らしい言い方で僕を応援をしてくれているようであった。

 もしかしたら、昨晩、僕が班のテントに居なかったことが、班の中ではやっぱり問題になっていて、それでこんな風にみんなして僕をフォローしてくれているのかもしれないな、などと思ったが、それはそれでなんだか少しくすぐったい感じがした。


 朝ごはんの準備が終わると、だいぶ多く炊いたご飯の残り分でお昼のおにぎりをみんなで握った。
 僕のは、まるで今の気分が反映されているかのように、とても形が良く出来て、みんなからとても感心をされた。
 
 そして、朝ごはんを食べ始めると、今日これから行く沢登りがどれだけ楽しいものなのかをじんべー君が熱心に話してくれた。
 僕はその初めて体験する冒険に、早くも心がときめいていた。



 小さなリュックサックにおにぎりと水筒を詰めて、今回の参加者全員が広場に集合をすると、そこからは再び昨日の朝のような大行列になって出発をした。
 そして、山の中をしばらく歩くと、間もなく大きめの沢に突き当たった。
 そこはキャンプ場のそばを流れている小川とは違う筋のようで、キャンプ場からは離れていくように流れているようだった。
 

 そこからついに沢登りが始まった。
 しかし、最初は沢の岸になっているところを慎重に歩いて行くようであった。
それでも、僕にはこの始めての体験に心がときめいていて、ただ歩いているだけで充分に楽しかった。

 しばらく行くと、間もなく両側から岩壁が迫ってきて、そこからはいよいよ水に浸かりながら沢の中を歩くようになった。
 それでも、最初は出来るだけ水に濡れないように、浅瀬を選んで歩いていたが、徐々に濡れることに慣れてくると、みんな次第に大胆になっていった。

 真夏の炎天が岩壁の端から覆いかぶさるようにして茂っている木々に遮られていたが、それでも所々で落ちてくる木漏れ日が沢の水に映ってとても神秘的な情景に見えた。
 その沢の水はひんやりとして気持ちが良く、ちょうどここまでの歩いてきた疲れを流しさってくれているようであった。
僕はそんな夢の中にいるような情景に心を打たれていて、興奮とも静寂ともつかぬ心持ちで文字通り夢中で歩いていた。

 しばらく歩くと、再び岩壁が少し広がり、そこで唐突に大きな滝にぶつかった。
 そこには少し広めの岸があり、どうやらそこで小休止をとるようであった。

 リュックサックを下ろして水筒の水を飲んでいると、滝の横にある岩壁のところで大学生の人たちが何やら作業をしているようだった。
 そして、どこからどうやったのか、5~6メートルはあろうかと思われる崖の上にもいつのまにか人が現れて、そこからロープを垂らしているようであった。

 そこで何かの遊びの準備をしているのかと、僕は興味深く見守っていたが、その時、突然本橋さんに僕だけが呼ばれた。
 そして僕は下していたリュックを再び背負わされて、その崖の下まで連れていかれた。
  
 そこで、先ほどから作業をしていた大学生の人たちから
 「よし、ココ来たか。おまえなら身軽だし得意そうだから、ロープを使ってこの崖を登ってみろ。」
 と、突然言われた。
 なぜ、僕なのか。
 また、ここを登ってどうするのか。
 など、心の中で質問が渦巻き、一瞬の間だけ混乱したが、すぐにそれは考えても意味の無いことのように思えてきて、それよりも僕の心はもう目の前の崖を早く登ってみたい衝動に取り込まれていたのであった。
 そこで、ロープをつかむとするすると小猿のような身軽さで僕は難なく上まで登りきった。

 崖の上では待ち構えていた本部の大学生である鉾田さんが、恵比寿顔に満面の笑みを浮かべて
 「よくやった。とてもよい登りっぷりだったぞ。」
 と、褒めてくれた。

 改めて崖の下を見下ろすと、100人を超える顔がみんなこっちを見ていて、僕はなんだかテレビの中のタレントにでもなったような気分であった。

 そのまま下の様子をみていると、すぐ横の滝の音が邪魔をして、下からの声は聞こえなかったが、しばらくは誰かが何かの説明をしている様子であった。
 そして、そのうちに僕が登ってきたロープに一人ずつ取り掛かると、時間をかけながらも全員が登ってくるようであった。

 僕はその様子をしばらくは熱心に眺めていたが、最初の3人が登り切ったところで、もう見飽きてしまった。
 そこで、同じように登ってくる人を見ながらも、アドバイスなどを送っていた鉾田さんに質問をしてみた。
 「ねえ、鉾田さんはどうやってここに登ってきたの。」
 すると、にっこりと笑いながら
 「実は登ったわけじゃないんだ。ここに出る他の道があるんだよ。」
 と、いうことだった。
 不思議に思っていた謎が他愛もないカラクリだったことに僕は興ざめをしてしまい、勝手に少しばかりがっかりしていた。

 
 しばらくそこで退屈さと闘いながらも、知っている人が登ってくるとやっぱり声を張り上げて応援をしたりしているうちに、いつのまにか半数以上の人が登り終わっていた。
 
 やがて、じんべー君や倉田君など僕たちの班の人たちも、僕に比べるとだいぶ慎重な様子に見えたが、それでもスムーズに登ってきて、やはりとても興奮した様子で話し始めた。
 「こんな崖を登るとは思ってなかったぜ。」
 「こんなことはしたことがなかったな。」
 そして、僕についても
 「ココの模範演技すごかったな。」
 「いつのまに登ることになったんだ。」
 などと言われて、羨望のまなざしで見られていることには誇らしく感じたが、でもやはりどこかが少しくすぐったいような気がしていた。
 そうしてしばらく班の人たちと興奮を分かち合っていると
 「ココ恰好良かったよ。」
 と、いつの間にか登ってきていたミミさんが隣に来て言ってくれた。
 ミミさんに改めて褒められると、また何か新たな気恥ずかしさが全身を覆ってくるようであった。

 「そういえばかずし君は。」
 ふと、先程から全く姿を見ていないことを思い出してミミさんに聞いてみた。
 するとミミさんは、不思議な笑顔でくすりと笑い
 「今日はかずしはキャンプ場でお留守番なんだ。」
 と言うのだった。
 なんでかずし君が留守番なのかについてはミミさんは教えてはくれなかった。
 でも、そうやってミミさんと話をしているうちに、僕はなんとなく昨日のバナナ事件が関係しているのではないかと思っていた。


 最後にみんなで水かけをして、沢登りのクライマックスを迎えた。
 僕もみんなの真似をして、誰彼かまわずに夢中で水を掛け合っていると、突然、後ろから大学生たちに羽交い絞めにされて、そのまま抱えあげられてしまい、少しだけ離れたところに連れていかれると、沢の水が深いポイントにそのまま背中から投げ込まれてしまった。
 突然のことにとても驚いたが、それはそれでなんだかとても気持ちが良かった。
 少しすると同じように抱え込まれた小学生が再び同じところに投げ込まれるところを見かけたので、きっと彼らは同じことをいろんな人にしているのだろうと思った。


 果てしなく続くかと思われたその狂宴も疲労感と空腹感とそして何よりも怪しくなってきた雲行きに依って俄に終止符を打たれることになった。
 そして、来た時とは別の間道を使って、そのまま真っ直ぐキャンプ場に戻って行った。



 本当は沢岸ですぐにお昼ご飯を食べる予定だったが、移ろいの激しい山の天気のせいで、キャンプ場に戻り、着替えを済ませた後でようやく食べることが出来たのだった。

 その頃には既に雨が降り始めていたので、テントの中にはいって朝にみんなで握ったおにぎりを開いた。
 そして、その中から形の良いものをいくつか選ぶと、そのいくつかをしょうこさんがどこかに持って行った。
 本橋さんの話によると、本部の人たちは先ほどの沢登りの準備でお昼ご飯を用意している時間がなかったので、各班から少しずつおすそ分けをしているとのことだった。

 そして、しょうこさんが戻るのを待って、いただきますをした。
 さすがに誰もが夢中で食べたので、結構な量を作ったと思ったおにぎりもあっという間に食べ終わってしまった。

 僕はくちくなったお腹をさすってぼんやりしていると、ちょろさんがリュックサックの中からトランプを取り出したことに気づいた。
 「たぶんこの雨じゃ、午後の活動は中止でしょう。」
 と、本橋さんに確認をしていた。
 「そうだな、念の為に本部に行って確認をしてくるから、みんなはテントの中で遊んでいてくれ。」
 と、なぜか合羽を着始めながら本橋さんが言った。
 僕は本部に聞きに行くくらいなら、傘で間に合うだろうに、と考えていた。

 「どうする、なにやろうか。」
 ちょろさんが聞くと
 「鬼引きでいいんじゃね。」
 と、倉田君が答えた。
 「なんか新しいのがやりたいなぁ。」
 と、じんべー君が言うので僕はすかさず
 「ウィンクハントしようよ。」
 と、言ってみた。

 「それどういうの。」
 と、ちょろさんから聞かれたけれど、僕にはうまく説明ができる自信はなかった。
 すると、しょうこさんが
 「よく知ってるね。」
 と、感心する風を装って、僕の代わりに説明役をかってくれた。


 僕は昨日の経験が活かせたせいか、多少はうまく出来たけれど、それでも覚えたてのはずのちょろさんに全くかなわなかった。
 「ちょろさんは何でそんなにうまいの。」
 試に聞いてみると
 「人生経験。」
 と、簡潔明瞭な答えが返ってきた。
 しかし、その答えは中学生たちに笑われてしまったようで、ちょろさんも少し恥ずかしそうだった。
 その様子を見て、ちょろさんも中学生からしたらやっぱり子ども扱いなんだな、と僕は当たり前のことに気付いて、何だか少し安心をした。

 にわか雨はスコールさながらの様を呈してきて、テントにあたる水の音はますます激しくなった。
 そして、僕はその音以外にも外から何か不思議な音が聞こえることに気が付いた。
 「あの音なに。」
 と、聞いてみるとすかさずじんべー君が答えてくれた。
 「テントが流されないように、本橋さんが穴を掘ってくれているんだべ。」
 そういえば、テント設営の時にテントを立てたすぐ斜面の上側に横一列に穴を掘ったことを思い出した。
 「でも、昨日テントを立てたときに掘ったよ。」
 率直な疑問をぶつけてみると
 「この雨だから、あれだと心もとなくなって改めて掘りなおしてくれているんだべ。」
 今度は倉田君が答えてくれた。
 僕は、僕たちの為に一人で作業をしてくれている本橋さんに申し訳ない気分になって、外に向かって大声で呼びかけてみた。
 「本橋さん、大丈夫。」
 すると、雨に負けないように本橋さんも大きな声で
 「問題ないから安心して遊んでな。」
 と、答え返してくれた。
 
 僕は改めて本橋さんの優しさと、大人の人のたくましさに触れて、僕も将来は周りの人に安心感を持たせられるような、そんな行動力の伴った大人になりたいと、そのとき思ったのだった。
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