光の渦

子どもの頃の原体験が、今の僕を形成している。それは当たり前すぎることではあるけれど、これほどまでに人生に影響を与えるものなのか、それとも美化された過去がこの原体験を大きく映しているのか、僕には分からない。

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1.野外活動研修会

 それから間もなくして、鉾田さんからの連絡をもらった。
 それは、野外活動の研修会があるので、ぜひ参加すると良いというものだった。
 僕は、全く概要も分からないままに予定だけを合わせて、その研修会に参加することにした。

 当日は駅まで鉾田さんが迎えに来てくれて、そこから二時間もかかる研修会場まで僕を車で送ってくれた。
 燦々と陽光が降り注ぎ、その間を縫うようにして爽やかな風が高原を降りてくる様子が見えてくるような、秋の一日であった。
 僕は、最初は鉾田さんも一緒に研修を受けるものと思い込んでいたので、会場まで着いて僕を下ろしたら
 「また帰りに迎えに来るから。」
 と、だけ一言残して、そのままUターンをして帰って行ったので、少し驚いてしまった。
 
 そして受付に行くと、僕の欄は既に『参加費用受理済み』となっていたことに再び驚かされてしまった。

 受付で受け取った概要書を確認すると、これからの三日間は、どうやらいくつかのグループに分かれてその研修を受けることになっているようだった。
 
 しかし、当然知り合いも居なく、何をやるのかさえ分かっていない僕は、そこで途方に暮れていた。

 すると、一人の男の人が唐突に僕に声を掛けてきた。
 「さっき送って来た人は家族の方かい。」
 年の頃40歳と僕は見立てたが、笑顔が優しげな人であった。
 僕はかぶりを振ると、努めて丁寧な口調で
 「いいえ、知り合いなんです。」
 と、答えた。
 すると、少し不思議そうな顔をしながら
 「わざわざ、送って来てくれたの。」
 と、聞かれた。
 僕は、簡潔に
 「はい。」
 とだけ答えると
 「ふーん、大したもんだね。」
 と、一人ごちているようだった。

 僕だって、そうと知っていれば自力で来る位の算段はしたのだけれど、それを先読みしてのだまし討ちだった訳で、それは鉾田さんらしいし様ではあったけれど、それをあえて他の人から指摘をされると、なんだか困惑をしてしまうのだった。
 
 「そういう他人の思いやりには感謝しなくちゃいけないよ。」
 当然、僕だって感謝の気持ちはあるのだけど、それをどういう形で恩返しすればいいものなのかが僕には分からなかった。

 その男の人も一人での参加で、僕を恰好の話し相手と見定めたようだった。
 僕も、今のところ全くの手持無沙汰であったので、聞かれるままにこの研修に参加することになった経緯を話し始めた。

 一通り話し終えたところで、早速その人の意見を聞かせてもらうと
 「それならば、恩返しの方法も簡単な事さ。」
 と、如何ほどの事でもないといった様子で語った。
 「そのキャンプを間違いなく、成功させることが一番の恩返しになる訳だから、そのためにこの研修で確実に必要なものを得て帰ること。」
 「そして、ここで何を得て、何を考えたのかということを帰りの道中でその人に話すべきだから、その為の整理を常に頭の中で行うといいよ。」

 僕はこのような大人の人の意見に早速ふれることが出来ただけでも、有意義なことだと思い、また自分の目的も整理されたことによってスッキリとした気持ちになることが出来た。
 「そうと聞けば俺も応援してるから、安心して頑張りな。」
 その時の僕は、加藤さんと名乗ったこの人や鉾田さんの、大人の包容力と気持ちの大きさに圧倒されていて、まだまだ未熟さの尻尾を垂らしながら歩いている自分を改めて小さな存在として感じるのだった。



 あいさつや入所案内など一通りのオリエンテーションが終わると、まずは簡単に座学が行われた。
 僕は要点をノートに書き留めながら、その流暢な発声から繰り出される講談に耳を傾けていた。
 今回の講師陣はその道では地元でも有数の著名人揃いの様子なので、相応に内容のクオリティーもプレゼンテーション力もすばらしいものであるようだった。

 まずは、一番最初の講義なので、内容の方はいわば総論といったところで、心掛けやマナーなど姿勢に関するものが多いようであった。

 僕には鉾田さんに対する責任と、子どもたちと交わした約束があるので、その受講姿勢は相当に真剣であった。
 一言も逃すまい、という気持ちはおそらく鬼気迫る様子で僕の表情に表れていたのではないだろうか。

 ところが、しばらくするうちに近くでクスクスと笑う声が聞こえたので、気になってしまって、ちらりとそちらの方をを見ると、暫し何人かの女の子と目が合ったのだった。
 彼女たちは僕と目が合うと、顔を見合わせるようにして、合図を送りあっていた。
どうも、やはり僕のことを見て笑っているようであったが、僕は当然彼女たちとは初対面だったし、なぜそのように笑われなくてはならないのかが分からなかった。

 それでも、僕には専修すべき使命があるので、もうその笑い声の方は気にしないことにして、そのまま講義に没頭した。


 講義が終わると、キャンプ場へと移動をして、そこに常設されているテントに荷物を入れ、それから今度は野外での実習活動となっていた。
 僕は加藤さんと講義に対する意見交換をしながらテントに向かった。

 そして、目的のテントに荷物を入れると、広場へと折り返して行った。
 
 広場では、班ごとに集合する段取りになっていたので、そこで初めて班のメンバー表を確認することになった。
 すると、幸運にも僕は加藤さんと同じ班であるようだった。
 加藤さんも、少し驚いた様子であったが、特に改めてそのことについての感想を口にはしなかった。
 そんな素振りのひとつひとつが年相応の深みを感じさせられて、いつか僕もそういう雰囲気を身に着けたいと思わされた。


 広場には人が三々五々と集まって来たが、班のメンバーが全員集まったところで、その場に車座で座って自己紹介を行った。

 「僕は新神と言って、学習塾の講師をしています。」
 真っ先に切り出したのは、加藤さんと同世代くらいの少しほっそりとした男性だった。
 先程の講師の人とは知り合いらしく、そのことを自慢するような様子で話していて、加藤さんとは人間性のところで大きく開きがあるように感じられた。
 しかし、新神さんが進行役を買ってくれたおかげで、それからは滞りなくすすんでいった。

 「牧野といいます。自治会の役員をしています。」
 やはり同じくらいの世代の人でキリッとした目つきの女性であった。
 僕はこの人の笑顔をこの研修中に見ることがあるのかなとそのときになんとなく思っていた。

 「加藤といいます。高校の体育の教師をしています。」
 僕は加藤さんの職業を未だ聞いていなかったことに、その時になって初めて気がついて、自分の事ばかり話してしまったことを恥じ、また自分の気が付かなさに再びがっかりしてしまった。

 続いては僕が自己紹介をした。大学生であること。子どもたちとキャンプをするグループで活動をしていることなどを掻い摘んで話したが、果たしてどれほど正確に背景が伝わったのかは不明であった。

 「辻田です。市役所の職員です。」
 僕より少し年上の女性で、物静かな様子に見えた。
 やはりこの人からも笑顔という言葉は連想が出来なかった。

 「来栖です。専門学校に行っています。」
 最後は学校のジャージを着た女性で、終始にこやかな様子であった。
 そういえば、先ほどの講義の時に笑っていた子たちも同じジャージを着ていたことを僕は思い出していた。

 一通り自己紹介が終わると、次の活動場所まで班ごとに固まって歩いて行った。
 僕が加藤さんと並んで歩いていると、その反対側から先ほどの来栖さんが並びかけてきて、僕に話しかけてきた。
 「ねえ、にいちゃん。」
 僕はなぜにそのような呼ばれ方をしているのか、不審に思った。
 「その呼び方は何。」
 少し不躾な様子になってしまったが、唐突なのは先方の方なので、それで構わないと思った。
 「みんながそう呼んでいるよ。」
 ますます不審になっていった。
 「みんなって。」
 なんとなく分かっていたがわざと聞いてみた。
 「一緒の学校の子たちだよ。」
 案の定、そのような答えが返ってきた。
 「でも、みんなとは初対面だよね。」
 僕は困惑の表情をつくってみせた。
 「そう。だけど、にいちゃんってみんな呼んでるよ。」
 なかなか要領を得ないので、何から聞こうか少し迷ってしまった。
 「まず、俺はみんなと同世代だけど、どうしてにいちゃんなのかな。」
 まるで子どもに言い聞かせるような口調になってしまった。
 「だって、すごい勢いで講義を受けていたでしょう。だから、みんながにいちゃんだって。」
 まるで脈略が無いけれど、なんとなくフィーリングでそのようなことになったのだろう。
 僕は取りあえずそこは納得したことにして、次の質問に移ることにした。
 「僕以外にも真剣に講義を受けていた人はたくさんいたと思うけど、他の人たちにも同じようにあだ名があるのかな。」
 「ううん。にいちゃんだけだよ。だって真剣に聞いていた中で私たちと同世代はにいちゃんだけだから。」
 なんだか、情けないことを堂々と主張されてしまったようだった。
 そこまで聞いたところで、目的地に着いてしまい、それにこれ以上聞いても発展性が無いことが分かったので、これ以上その話題には触れないことにした。

活動場所に着くと、班ごとにチームワークを作り上げる目的で、簡単なゲームを行った。
それは、セーので差し出した適当な手をつないで、その手を離さないようにしてほどいていき、やがてひとつの輪になる、というものであった。

ゲームが始まると、早速新神さんが取り仕切り始め、こう行けとか、ああしろと一方的にまくし立てた。
そのうちに、来栖さんが無理な体制になってしまって、痛い痛いと訴えたので、新神さんも、ゴメンゴメンと謝って元の体制に戻った。
すると、それまで黙っていた牧野さんが、おもむろに口を開いて「一度、よく考えてから動いた方が、効率が良いのではありませんか。」と提案をしたので、一同そうすることにした。
そして、それを受けて辻田さんが何かを言おうとしたときに、またも新神さんが、こうするべきだと言って、
話しを始めた。
その話が一息をついたところを見計らって、加藤さんが、「先程辻田さんが何か言いかけていたけど、良いアイデアがあるのではないかな。」と、水をむけた。
しかし、新神さんが、一通り話しをしてしまった後だから遠慮をしたのか、「いえ、大丈夫です。」とだけ答えた。
加藤さんもそれ以上は何も言わなかったので、牧野さんが、「とにかくも、新神さんの言う方法でまずはやってみましょうか。」と、一旦話し合いは終わりにしたようだった。


他の班は、とうに終了してしまって、あとは座って僕たちのことを見学しながらお喋りに興じていたが、相変わらず、僕たちは四苦八苦していて、成功する兆しさえも見えてこなかった。
最初は僕も遠慮してあまり発言をしないようにしていたのだが、徐々にじれてきてしまい、新神さんに負けじとああしたらどうかとか、こう動けばどうかと主張をしていた。
しきりに来栖さんなどは、賛同してくれているけれど、かえって混乱を生んでいることは僕にも分かってはいた。

やがて、タイムアップとなり、僕たちは不完全燃焼のうちにそのゲームを終えることになった。
どうも、うまくかみ合っていない班の状況が僕の中に遣る瀬無さを生み出していたが、どうにも不可解なのは、なぜかそれは僕だけが感じているように思えることだった。



お昼になると、お弁当が配られて、班ごとに車座に座って食べることになった。
風が糸を引くようにするすると通り抜ける高原の広場は、腰掛けた大地の座りよさに、思わずため息をつきそうな気分にさせられた。
僕のとなりには来栖さんが座り、そして反対側には辻田さんが座った。
何となく年齢が近い人同士で固まった感じであった。

相変わらず来栖さんは、脈略が無い話を続けていたが、今の僕には、腰の落ち着き具合とあいまって、気分が解されてくるようで、ありがたいことではあった。
それとは対照的に、辻田さんはほとんど話をしないで黙々と食事を続けていた。
僕もこちらに熱心に話しかけてくる来栖さんとばかりつい話をしてしまっていた。



午後になると、室内に戻って班ごとにワークショップを行った。
野外活動を通して得られるものは何か、というのが僕たちのテーマであった。
ここでも、新神さんが取り仕切り、まずはそれぞれが思ったことを、ブレーンストーミングしていこう、ということになった。
僕はこの始めての作業にドキドキしながら臨んだ。

しかし、いざ意見を出そうと考えてみても、なかなか言うべき言葉が出てこなかった。
そんな僕の様子などは他所に、今回は、新神さんの進行で、主に牧野さんが意見を出して行った。
そして、その合間を縫うようにして、加藤さんがポツポツという風に口を挟む感じであった。
辻田さんは同意するように相槌を打つことが主ではあったが、その時々で必要に応じて意見を述べていて、話の流れに乗っている様子であった。

暫くそのような流れで、進んでいたが、その時新神さんが僕と来栖さんを交互に見ながら、「学生の二人からもちょっと話を聞いてみたいんだけど、例えば今回ここに参加してみて、未だたいして時間は経っていないんだけど、楽しかったとか、印象に残ったことってあったかな。」

僕は急に話を振られたことで、少しドギマギしながらも、これまでの時間を思い返してみた。
すると、ほぼ間髪を容れずに来栖さんが「上手くいかなかったけど、さっきの手をつなぐゲーム、あれ面白かったね。」と、答えていた。
僕はちょっと意外に思ってしまい、思わず来栖さんの顔を見たが、相変わらずにこやかな様子で、心から楽しいといった雰囲気であった。
そんな僕の心を読んだ訳では無いだろうけど、新神さんが「あれ、上手くいかなかったけど、それがかえって良い経験になったはずだよ。」などと話していた。
僕は内心で、なんか勝手なことを言っているなぁと、少し呆れていた。


話し合いの時間が終わると、新神さんの奨めで、僕がグループを代表して発表をすることになった。
正直、ほとんど話にはいれなかった僕には荷が重いと感じていた。
しかしその後で、 発表の段取りについて新神さんから教えられると、それはそれであまり面白い気分にはなれなかった。
何だか僕は、少し居心地の悪さを感じていて、自分がここにいることが場違いな風に思えて来たのだった。



少し早めに夕食の時間になった。
夕食の席順はフリーだったので、来栖さんは学校の仲間たちと一緒に食べるようだった。
僕は加藤さんと一緒にと思ったけれど、新神さんや牧野さんなど、同年代の人で集まっているようであった。
とりあえず、空いている席に適当に座ると、隣には辻田さんが座った。
この人も、一人での参加で、まだあまり知り合いが少ないのだろうと思い、その辺は僕と似ている境遇なのだろうなぁ、と何と無く想像をさせられた。
すると、そんな思いを断ち切るように、明るい声が反対側からかかった。
「やあ、お疲れ様。疲れた分お腹も空いたね。」
闊達で若やいだ声の持ち主は、僕より少し年上で、モデルの様な長身の爽やか男児であった。
「あ、お疲れ様です。お一人の参加ですか。」
僕も慌てて答えた。
「そう、大学のアウトドアサークルのイベントと予定が重なったので、僕だけこっちに来ることにしたんだ。」
端的で淀み無い話ぶりに僕は少し圧倒されていた。









 
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まとめ【1.野外活動研修会】

 それから間もなくして、鉾田さんからの連絡をもらった。 それは、野外活動の研修会があるので、ぜひ参

まっとめBLOG速報 2012-11-23 (Fri) 00:33


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