光の渦

子どもの頃の原体験が、今の僕を形成している。それは当たり前すぎることではあるけれど、これほどまでに人生に影響を与えるものなのか、それとも美化された過去がこの原体験を大きく映しているのか、僕には分からない。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

4.崩壊

 グツグツという音は、目に見えないひとつの調味料ではないかと僕は考えていた。
 その音を耳にしただけで、ひと味変わってくるような錯覚が僕にはあった。
 しかし、それを口にすれば、現実的なモモコからきつく否定をされそうで、僕はその思考を頭の中に留めておくことにした。

 この再びの鍋会の趣旨は、キャンプには参加しなかった鉾田さんが僕らを呼んでキャンプの様子を聞きたがったのと、今回このようなことになってしまった原因の究明だった。
 一通り、僕たちの話が終わると、今度は鉾田さんがゆっくりと話し始めた。
 僕たちは、鍋の具を突っつきながらその鉾田さんの話に耳を傾けていた。

 「俺はある程度の予感があったんだけど、お前ら三人が居ればあるいはという期待も実はあったんだ。」
 長く関わってきた鉾田さんとしては、半ば諦め切れないところであったのだろう。
 「ココはたぶん六年間のブランクをコンプレックスのように感じていたのかもしれないけど、それで逆に囚われない自由さがあるだろうし、それは高校生から来始めたとおるにも言えることだと思った。」
 一呼吸を置くと
 「モモコに関しては、性格上過去の物事には囚われない自由な発想が出来ると期待したんだ。」

 するとモモコが
 「それで、あの時の話だったの。」
 と、聞くと
 「まあ、お前らの意気込みを確かめたかったところもあったんだけどね。」
 今になってあの時僕たちを集めた理由を聞かされるとは僕は思ってもみなかった。

 再びモモコが
 「それなら、もっと直接的に話してくれればよかったんじゃない。」
 と、質問を投げると
 「それだと、意味がないよ。」
 と、すげない回答であった。
 「なんでなの。」
 モモコに代わってとおるが問いかけてみると
 「ああいうテーマだったんだから。」
 そこは自分たちで考えろと言わんばかりだった。

 それで、少し考えてから
 「つまり、僕らに始めから悪いように思い込ませたくなかったってこと。」
 僕が尋ねると。
 そうだと言うように、ひとつ頷いた。


 ひとしきり、鉾田さんの言いたいことを呑みこんでから僕は口を開いた。
 「でも、僕は反対意見をだいぶ出したけど、結局は全く通らなかったよ。」 
 鉾田さんはまたひとつ頷くと
 「その時とおるはどう思った。」
 と、とおるに投げた。
 「正直、ココの言いたいことも分かったけどその時はこれまでやってきたことを無理に変えなくても良いのかなって思っちゃったな。」
 なるほど、と僕は思った。
 とおるでさえ、そう思ったのであれば、それはやはり思い込みがグループとして相当に根深く浸透しているのだと感じられた。
 「失敗することは考えなかった。」
 再び鉾田さんに迫られると
 「今までが上手くいっていたからね。」
 とおるも屈託なく答えた。
 「本当に上手くいってたのかな。」
 「今思えば、決してそうではなかったんだろうね。」
 とおるは落胆した様子で答えていた。
 「モモコは気付かなかった。」
 今度はモモコに振ると
 「今回のキャンプもそうだったけれど、事なかれ主義が問題を上手く隠していたんだと思う。」
 「でも、それが積み重なったから、今回の事態に至ったんだよ。」
 僕は口を挟まずにはいられなかった。
 
「あれをやらなくちゃいけない、これをやらなくちゃいけない。または、うまくやらなくちゃいけない。事務作業や安全面の配慮ならばその通りかもしれないけれど、企画や構想といった観点で広い視野から見ると、そんなことは無意味なことだったり、時には害にさえなりかねない。でも、渦中では気づき難いものであるし、長く続けているとまさに陥り易い問題なんだと思う。そして、その結果として今回があった。そう、言うなれば、清流は絶えず流れていて、初めて清流たらしめているんだね。」
 鉾田さんの言う結論はそういうことだった。 
 「でも、もしかしたら他人事に聞こえて不愉快に思えるかもしれないけれど、せめて大きな事故が無くて、それだけで今回は良かったんじゃないかな。」
 鉾田さんの総括の言葉を、僕は全くその通りだと思った。
 
  

 しばらくその話は中断して、僕たちは食後のコーヒーを楽しんだ。
 鉾田さんがこだわりのコーヒーを豆から挽いてくれたので、部屋中に香りが充満して、僕たちはとてもリラックスすることが出来た。
 
 「さて、これからとおるはどうするんだ。」
 おそらく鉾田さんが一番聞きたかった核心部分に話が及ぶようであった。
 「これから家業を継ぐための勉強をすることを考えると、来年もしキャンプを行うには片手間にならざるを得ないから、そういう関わり方を俺はしたくないな。」
 つまり、来年は関わらないという宣言だった。

 「モモコは。」
 およそ答えは分かっていたが
 「私はやっぱり大学が遠いから、ちょっと無理だよね。」
 想像の通りの答えだった。

 「ココはどうする。」
 僕の答えは既に決まっていたが、あえて少し考えるように間を置いた。
 そして、咳払いをひとつすると
 「班の子どもたちと約束したんだ。」

 そこまで言うと、続きは鉾田さんが引き取った。
 「また来年も来ようって。」
 「うん。」
 僕はきっぱりとうなずいた。
 「たぶん考えているよりも相当に大変だぜ。」
 鉾田さんの言うことは当然であった。
 「でもやりがいのある挑戦だからね。」
 その時の僕は若さゆえに世間知らずであることを長所だと理解していた。
 
 とおるもモモコも心配そうな表情をしていたが、僕は一旦宣言をしてしまったために却ってすっきりした気分になっていた。


 
 これで、完全に崩壊をしてしまったこのグループに、戻って来たばかりの僕が一人で残るという不思議な状況になってしまった。
 そう、あのキャンプが終わってしばらくすると、ここに居る以外の全員が、なし崩し的にグループを辞めてしまったのだった。

 おそらく、僕のひとりからの再出発に対して、鉾田さんやとおるたちは応援をしてくれるであろうが、これからは、人集めも含めて、僕は一から作り上げていく厳しさに立ち向かわなくてはならなかった。
 しかし、不思議と不安はなかった。

 最初、どんなに困難な状態であったとしても、真摯に取り組んでさえいれば最後にはうまくいくという想像力が、過去のキャンプの体験を通して僕は身についているようであった。

 そして、その時の僕には、来年の今頃も鉾田さんやとおる達と笑顔で鍋をつついている自分の姿が頭の中にハッキリと浮かんでいた。
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。